冒険映画に出てくるようなテクノロジーが現実になりつつあります。カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究チームが、”宇宙で発電した太陽光エネルギー” を “地球に向けて無線で伝送” することに初めて成功しました。
いわゆる「宇宙太陽光発電プロジェクト」(Space Solar Power Project / SSPP)の実証実験です。太陽の光を集め、それを地球に送るという画期的な試みが、私たちの抱えるエネルギー問題に 一石を投じるかもしれません。
太陽光発電実証機 MAPLE で送電に成功
同大学では、MAPLE(Microwave Array for Power-transfer Low-orbit Experiment)という機器(技術)を使って、宇宙太陽光発電の実証実験を行いました。MAPLEの仕組みを簡単に説明しますと、太陽光から得られた電力をマイクロ波に変換して送電するというものなのですが、マイクロ波を絶妙なタイミングで制御することにより、指定された場所へ正確に送電することが可能となります。
静止軌道上の衛星は、太陽光を受け続けることができるため、地球上の太陽光パネルよりもずっと多くのエネルギーを集めることができます。供給量も大幅に増やすことが期待できそうですね。
ちなみに、この MAPLE は 宇宙太陽光発電プロジェクト(SSPP)による最初の宇宙搭載実証機「宇宙太陽光発電デモンストレーター」(SSPD-1)でテストされている 3 つの主要技術(機器)の1つになります。
実際に「宇宙から得られるエネルギーが私たちの電力需要を満たす」というイメージを想像してみると、なんだかワクワクしてきますね。これは、なんだか夢のような話にも聞こえそうですが、もはやSF映画の世界の話ではありません。
宇宙に浮かぶ MAPLE の内部画像。左側が受信機、右側は送信機。提供:Caltec
このプロジェクトが成功すれば、二つの大きなメリットが得られます。一つ目は、地球上のどこでもエネルギーを供給できるということです。これにより、電力網に接続できない遠隔地や災害地でも電力を供給できるようになります。
二つ目は、太陽光エネルギーの供給量を大幅に増やすことが可能となるということです。これにより、再生可能エネルギーの需要を満たし、地球温暖化の問題を解決するための有力な手段となりそうですね。
世界で宇宙太陽光発電の研究が進展中!
カリフォルニア工科大学の実証実験以外にも、米空軍、欧州、日本、中国など、世界各地(各国)で「宇宙太陽光発電」の研究が進んでいます。
アメリカの空軍研究所(Air Force Research Laboratory / AFRL)では、宇宙太陽光発電の重要基礎技術の研究開発を Northrop Grumman 社や海軍研究所(NRL)とともに進めています。2023年に発送電モジュールを打ち上げ、宇宙での実証実験を予定しています。
欧州宇宙機関(ESA)も「Solaris」という実験プログラムを進めており、2030年代までに稼働を開始し、最終的には欧州の10~15%程度の電力量を賄うことを目標としています。
日本では、2009年より、経済産業省主導の産官学プロジェクトとして、宇宙太陽光発電の研究がスタートしています。現在は、地上での水平方向・垂直方向の実験を行っている段階ですが、2025年頃には宇宙空間での試験運用ができるよう目指しています。
中国でも成層圏太陽光発電所を建設し、発電を行う計画が予定されており、2025年以降は大規模宇宙太陽光発電所システムの関連活動を開始するほか、2030年にメガワット級の試験的な宇宙太陽光発電所の建設を、2050年までにギガワット級商業宇宙太陽光発電所を建設する計画を立てています。
これらの実験が成功して実用化されれば、化石燃料に依存することのない世界、つまり地球温暖化を回避できる世界が現実のものとなりそうですね。また、昼夜や天候にも左右されず、安定した電力供給が期待できそうです。そんな世界が早く来てくれることを願ってやみません。
[ 参考文献 ]
- カリフォルニア工科大学
In a First, Caltech’s Space Solar Power Demonstrator Wirelessly Transmits Power in Space - 米国空軍研究所
Space Power Beaming - 経済産業省製造産業局宇宙産業室、宇宙システム開発利用推進機構
宇宙太陽光発電における無線送受電技術の高効率化に向けた研究開発事業委託費の概要