マグロの神秘:”24時間泳ぎ続ける能力” と “眠り” の秘密

生き物

マグロ(鮪)といえば、お寿司のネタや刺身として “人気ナンバーワン” のお魚ですね。クロマグロ(本マグロ)、メバチ、ビンチョウ、キハダなど、いろんなマグロが店頭に並んでいます。

そんな皆から愛されるマグロですが、”海の中” ではどのように過ごしているのでしょうか。「マグロは 常に泳ぎ続けるの?」「泳ぎながらどうやって寝るの?」といった疑問が湧いてきます。今回は、マグロの「スタミナ溢れるオドロキの生態」について 探求したいと思います。

なぜマグロは常に泳ぎ続けるのか?

マグロはなぜすっと泳ぎ続けるのでしょうか。そのお話をする前提として、魚の呼吸法について少しおさらいしたいと思います。

“一般的な魚” の エラ呼吸 の仕組み

魚類は、皆さんご存知の通り エラ(鰓)で呼吸していますね。もう少し詳しく申しますと、口から入ってきた水をエラから排出しています。

一般的な魚たちは、鰓蓋(えらぶた)を開いたり閉じたりして(口から入ってきた)水の排出をうながし、その水が エラを通過する際に(エラの)毛細血管から酸素を取り込んでいます。同時に二酸化炭素も排出しています。

“マグロ” のエラ呼吸 の仕組み

しかし、マグロは他の魚類と異なり、鰓蓋(えらぶた)を動かさず、エラは開きっぱなしの状態になっています。エラを動かすための筋肉もありません。

マグロはハイスピードで泳ぎ続けていますので、口を開けてさえいれば、エラに海水がどんどん流れ込んでいき、自動的にエラの外に流れ出ていきます。その流れを利用して(エラの)毛細血管から酸素を取り込んでいる、ということです。

これは、ラムジュート換水法(ラム換水)といわれる呼吸法であり、マグロ、カツオ、サバ、サワラといった “サバ科の回遊魚” はこの方法で 海水から酸素を取り込んでいます。

確かに、一定のスピードで泳ぎ続けるのであれば、水の流れは自然に出来ますので、わざわざエラを開閉させなくても「新鮮な酸素を含んだ海水」と「エラの毛細血管」がスムーズに接触できるような気がしますね。

また、逆にエラを開閉させると(特に 閉じた時)、口から入ってきた 大量の流水 がエラから出にくくなり、(水の抵抗が生じて)速度低下につながりそうなのも分かります。速度が落ちれば、海水の流量も減り、吸収できる酸素の量も減っちゃいそうですね。

マグロが “泳ぎ続ける” 理由

つまり、マグロは鰓蓋(えらぶた)を動かせない仕組みになっており、泳ぎを止めると酸欠状態で窒息死してしまいますので、常に泳ぎ続けなければいけません。

大海原(おおうなばら)をダイナミックに泳ぎ続けることはできても、海藻・珊瑚・岩陰などで静かに定住できないのは、まさにこの呼吸法の仕組みの違いが原因だったんですね。

 

泳ぎ続けられるカラダの仕組みも備わっている

また、マグロは、ずっと泳ぎ続けられるようにするための「効率の良いカラダの仕組み」も 兼ね備えています。主な機能として「ヘモグロビンミオグロビン」と「奇網」の2つが挙げられます。

「ヘモグロビン&ミオグロビン」がスゴイ!

マグロの血液には、酸素を運ぶ役割を持つヘモグロビン」(赤血球)が大変多く含まれているほか、筋肉には 酸素を蓄える役割を持つミオグロビン」(赤い色のタンパク質)も沢山含んでいます(筋肉1kgあたりに 5~6g を含有)。このため、他の魚よりも「効率良く酸素を 運搬&貯蓄 できる」ようになっています。

ちなみに、筋肉は 遅筋(ちきん)と 速筋(そっきん)に大別されます。遅筋は、ミオグロビンが多く含まれており、酸素を使用しながら収縮する筋肉(長距離型の筋肉)として使われます(いわゆる有酸素運動で使う筋肉)。マグロの身(筋肉)が赤いのは、ミオグロビンを多く含む「遅筋」が多く含まれるためです。

一方、真鯛やヒラメなどは 長距離移動をせず、瞬時に獲物を捕らえる のに使う「速筋」(=無酸素運動で使う筋肉)が発達しているため、身が白っぽくなっています。

「奇網」もスゴイ!

また、マグロは 筋肉の中に 奇網(きもう)という「動脈と静脈で出来た 熱交換器」のような役割を有する “血管網” を持っています。

この 奇網 のおかげで「海水の温度よりも体温(筋肉温)高く保つことができる」ため(水温+5~10℃)、常に筋肉をスムーズに動かせる、つまり「運動能力を維持できる」(運動能力の低下を防げる)ようになっています。

ちなみに、奇網は「熱交換」に加え、「気体やイオンの交換」にも使われる血管組織であり、魚類の他に 鳥類、ほ乳類などの脊椎動物にも備わっていますので、奇網自体は珍しいものではありません。

ただ、マグロなど高速で泳ぐ魚は、この奇網を「筋肉の温度を上げる」(局所的に代謝率を高める)べく、最大限に活用している、ということですね。

 

マグロはどうやって寝るのか?

そんな “常に泳ぎ続けるマグロ君” ですが、「じゃあ、夜は寝るの?」「もし寝るなら、その時は泳ぐのか? 泳がないのか?」という疑問が浮かんできます。この点についてもフカボリしていきましょう。

結論から申しますと、マグロは泳ぎながら眠ります。もちろん、人間のように 寝床で(静止して)深い眠りにつくわけではありませんし、海藻や岩陰に隠れて寝るわけでもありません。「マグロ独自の眠り」につくわけです。具体的にどのような眠りなのかについて、ご説明します。

「マグロが寝る」とは、どんな状態を指す?

マグロは、昼間は活発に泳ぎますが、夜になるとその泳ぐ速度を落とし代謝を下げて泳ぎ続けます。つまり、ゆっくりと泳ぎながら休息を取っているということです。

この「活動量を落として 代謝を下げ疲労を回復させる」という行動こそが、いわゆる「寝る・眠る行為に相当する」ということなんです。

マグロの平均速度は 時速 7km で、高速時には 時速 18km ほどのスピードで泳ぐそうですが(※1)、休息モードの際(特に夜間)は、泳ぐスピードをかなり落とすといわれています。

「スピード落としちゃっても大丈夫なの?」という心配が 頭をよぎりそうですが、マグロ自身の代謝を落としさえすれば、低速で得られる酸素の量でも十分に足りる、ということなんだと思われます。

もちろん、体全体の代謝率を落として お休みモードに入った際も、前述の

  1. ヘモグロビンミオグロビン」が酸素を効率良く吸収&保持し続けていること や、
  2. 奇網」で 局所的に筋肉の代謝率を上げて 泳ぎを継続できること

などの生命維持機能が 大いに役立っているものと思われます。マグロが 海の中で生きていくためのスバラシイ戦略といえますね。

 

マグロはショートスリーパーでもある?

また、マグロが「ごく短時間、惰性で泳いでいる」という姿も観察されています。ショートスリーパーのごとく、この短い時間で身体や脳を休息させているのではないかといわれています。

もちろん、人間のように意識が夢の世界へ行くようなことは無いので、ほんの一瞬、一説には6秒程度、活動を緩めるというだけのようです。また、マグロの群れの中で「交互にショートスリープをしている」のではないかとも推察されています。

こんな寝方は、人間の世界では考えられない・・・と思ったのですが、そういえば「電車で寝ているサラリーマンが、駅に到着すると目を覚まして下車」するのも、なんだか “マグロのショートスリープ” に似ているような気もしますね。

マグロの眠りの謎を解く旅は続く

このように、マグロは、夜間に代謝を下げて体を休息させたり、惰性で泳いで細かい休息も取る、といった行動を繰り返すことにより、疲労を回復させているようです。

人間の「寝る・眠る」という行為も、結局は「脳や身体の疲労を回復させる」ためのものですから、マグロの「夜間に代謝を下げる」「短時間だが惰性で泳ぐ」という行動も同じ目的のものであるといえそうですね。

ネットで調べると「マグロは寝ない」という表現を用いているサイトを時々見かけますが、その大半は「人間、ほ乳類、鳥類、他の魚類 … etc. のような眠り方ではない」と主張しています。つまり、「マグロは、マグロなりの寝方をしている」ということですね。

マグロの睡眠については、いまだ解明されていない点もたくさんあるようです。今後のさらなる解明&発見に期待したいですね。

おまけ:マグロは高速スイマーなのか?

余談ですが、昔は「マグロの速度は時速80km」とか「100km/h」といった “常識” や “通説”!? が広まっていました。ネットで調べると、今でも「80km/h」と記述されているサイトが 多数あります。

しかし、1980年代に入ってから、研究者がクロマグロ に発信機を装着して実測したところ、前述しましたとおり「平均時速 7km、最高時速 18km」ということが判明しました(※1)。

カジキマグロにおいては、実測で時速 2km だった(最高時速 8km)というデータも出ています。「あれっ? 見間違い?」と思えるほどの 速度差がありますね。

また、2019年に 米国・マグロ研究保護センター のチームが 大西洋クロマグロ の速度を実測した結果、平均時速は 5.4km(1.5m/秒)で、潜水時にはスピードが上がって 時速 22~29km(6~8m/秒)だったそうです。ニシクロカジキに至っては、低速時は時速 0.5~0.9km、高速時でも時速 3~4km でした(※2)。

ただし、少なくとも クロマグロ については “魚の平均速度” として「速い部類」に入りますし、そもそも 水中の抵抗 は大変大きいので、それらの点を加味すると、間違いなく「高速スイマー」といえると思います。

また、獲物をとる瞬間は素早い動きをするでしょうし、海流に乗って速度が増すこともあるでしょうから、さきほど示した速度よりも一時的に速くなることも多々あると思われます。

とはいえ、時速 80キロ や 100キロ のような “高速道路 並みのスピード” というのは、どうやら無さそうですね。

[ 参考文献 ]

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